Bクラス シーズン3+ 2020

第6回「シュワルツの 『音つかい』と僕」(2020/12/26)

シーズン最終回。

 

歴史の文脈内での前後関係を踏まえつつ、

『ウィキッド』『ピピン』『ゴッドスペル』などを手掛け、半世紀にわたって活動する、スティーヴン・シュワルツの作品群をご紹介しました。

 

"シュワルツっぽさ"の4つの特徴として、

1. リズムの腰を折る(シンコペーション)

メロディもベースも、ひたすらビートからずれ続けていくことで推進力が与えられ、一度始まったらなかなか終わりそうにない音楽を生み出しています。

2. ひと音多い(複雑なコード)

シュワルツ本人が語っているように、そのコードの複雑さ(と不協和音への傾倒)はS.ソンドハイムと近しいものがあります。が、あくまでシュワルツ固有の近代的な響きが感じられます。

3. さかさまイントネーション

英語のことばとしてのイントネーションやリズムを意図的に裏切る旋律を描くことで、その詞を際立たせる、という手法を多用します。

4. これからの「音」の話をしよう

「元ネタ」「後ネタ」ということばを使って、ミュージカル史の中でシュワルツに影響を与えた、またシュワルツに影響を受けた前後の作曲家について考えつつ、"ぽさ"の確立についてお話ししました。

 

これらの特徴を挙げ、全てを盛り込んで実際に作曲をしたら、シュワルツっぽい音楽ができるのか、

春はあけぼの S.シュワルツ版(BHSオリジナル)

動画をご覧いただくことで、皆さまへの問い掛けとして講義を閉じました。

春夏秋冬を題材とした詞ですが、シュワルツ版は1年を一周して来年が巡ってきそうな音楽に仕上がりました。

 

「春はあけぼの」(清少納言)を歌詞とした、ミュージカル作曲家のスタイルによるオリジナル楽曲シリーズは、YouTubeチャンネルにて順次公開中です。


第5回「ジョン・カンダーの ようこそ"B'wayっぽさ"ヘ」(2020/11/21)

一周回って"ブロードウェイっぽさ"、"ミュージカル音楽っぽさ"とは何だろう、を探る回。

 

『シカゴ』『キャバレー』『蜘蛛女のキス』などを手掛け、第二次大戦前後のブロードウェイミュージカル音楽を繋ぐ役割を果たした、ジョン・カンダーの作品群をご紹介しました。

 

"カンダーっぽさ"の4つの特徴として、

1. ドソドソベースライン(ラグタイム)

「ラグタイム」は、ビート通りに刻むベースと、それに対してズレていく(シンコペーション)メロディを持つ音楽。カンダーは多用気味。

2. リサイクル可能メロディ

ひとつの小さなメロディ(モティーフ)を繰り返すのはどの作曲家も同じですが、カンダーは、わかりやすい「サビ」を持たずに、ひとつのメロディだけで2〜3分歌わせてしまうことが多い。

3. るつぼ音楽館

南米大陸のラテン音楽を筆頭に、ドイツ、ロシア、フランス、ユダヤなどヨーロッパ各地の音楽を取り入れた、多国籍/多ジャンルミュージカルの草分け的存在。

4. クールな合いの手

ジャズ用語で「バッキング」と呼ばれる、メロディ(歌)に対するオケの呼応する伴奏の特徴。のちの多くの作曲家が模倣したその手法について、講義中には「コンチェルト・グロッソ」(バロック時代に流行した、コール&レスポンス的な作曲&編成法)というワードも飛び出しました。

 

を挙げ、これら全てを盛り込んで実際に作曲をしたら、カンダーっぽい音楽ができるのか、

春はあけぼの J.カンダー版(BHSオリジナル)

動画をご覧いただくことで、皆さまへの問い掛けとして講義を閉じました。

「わろし」の3文字をどう特徴化するか、が今シーズン大きな課題ですが、カンダー版の「わろし」はなかなか面白い仕上がりになっています。

 

「春はあけぼの」(清少納言)を歌詞とした、ミュージカル作曲家のスタイルによるオリジナル楽曲シリーズは、YouTubeチャンネルにて順次公開中です。


第4回「ロジャース著 『ミュージカル音楽のすゝめ』」(2020/10/10)

19年7月の特別企画以来となる、R.ロジャース回タイトル。

 

『サウンド・オブ・ミュージック』『王様と私』『回転木馬』など、ミュージカル史に残る傑作を多く遺したリチャード・ロジャースに焦点を当て、彼の作曲の特徴=ぽさ を、実際のナンバーをご紹介しながら言語化しました。

 

「ロジャースっぽさ」の4つの特徴として、

1. 歌のはじめは4,8,16(偶数小節の様式美)

ほとんどの曲が、同じ長さに等分できる収まりのよいメロディ構成であること。(4の倍数小節)

2. メロディの跳ぶ/跳ばない

隣の音にいくとき、遠い音にいくとき、の差が激しく、まるで(歌でなく)楽器のためのメロディかのように聴こえること。(詞が先に書かれているにも拘らず)

3. 突然ジャズの薫り(aug 9thコード)

クラシックの文法では説明のつかない、ジャズっぽい響きが、ピンポイントで使われること。またその派生として、フランス音楽の影響を受けている部分もある。

4. ワルツがお気に入り

他のミュージカル作曲家には見られない、「1作品1ワルツ」の法則(やや例外あり)。ロジャースといえば、ワルツ。

 

を挙げ、これら全てを盛り込んで実際に作曲をしたら、ロジャースっぽい音楽ができるのか、

春はあけぼの R.ロジャース版(BHSオリジナル)

動画をご覧いただくことで、皆さまへの問い掛けとして講義を閉じました。

残念ながら、ワルツで作曲することができなかったのですが(「春はあけぼの」のことばが3拍子に入らない)、クラシック音楽とミュージカル音楽の隙間に入り込むような音楽を目指しました。

 

「春はあけぼの」(清少納言)を歌詞とした、ミュージカル作曲家のスタイルによるオリジナル楽曲シリーズは、YouTubeチャンネルにて順次公開中です。



第3回「ディズニーバラードと 音楽の『荘厳』」(2020/9/19)

これまでのシーズンでも数多く取り上げてきた、A.メンケン(ディズニー)作品。

 

『リトルマーメイド』『アラジン』『美女と野獣』などのディズニー作品をはじめ、数多くのキャッチーな、有名なメロディを生み出す作曲家、アラン・メンケンに焦点を当て、彼の作曲の特徴=ぽさ を、実際のナンバーをご紹介しながら言語化しました。

 

「メンケンっぽさ」の4つの特徴として、

1. 口癖メロディ(モティーフ反復)

メロディの部分=欠片を積み重ねて、全体=曲にしていく効率の良い作曲法。

2. 遠い音へのエネルギー(旋律の跳躍における特徴)

歌いやすい隣の音にいきそうな場面で、意図的に遠い音へすすむメロディの特徴。

3. きゅん和音/じわ和音(Ⅵと◯Ⅶの特徴的な使用)

「荘厳」なサビの前と、あとのピンポイントに使われるコード・・・歌詞を引き立てる。

4. サビへの壮大なフリ(アウフタクトから強拍へのエネルギー)

サビに入る直前の、わかりやすい高揚とタメ。

 

を挙げ、これら全てを盛り込んで実際に作曲をしたら、メンケンっぽい音楽ができるのか、

春はあけぼの A.メンケン版(BHSオリジナル)

動画をご覧いただくことで、皆さまへの問い掛けとして講義を閉じました。

今回は、曲の構造をメンケンのそれに寄せることで、上記1-4の特徴を「曲のどの部分で使用するか」がメンケンっぽさの重要なファクターであることを再確認しました。

 

「春はあけぼの」(清少納言)を歌詞とした、ミュージカル作曲家のスタイルによるオリジナル楽曲シリーズは、YouTubeチャンネルにて順次公開中です。


第2回「噛めば噛むほど ソンドハイムの後味」(2020/8/22)

活動初期より、受講生アンケートでリクエスト最多を誇った作曲家、ソンドハイム。

 

『スウィーニー・トッド』『イントゥ・ザ・ウッズ』『カンパニー』など数多くのミュージカル作品を手掛け、ミュージカルのいちジャンル名ともなっている作曲家、スティーヴン・ソンドハイムに焦点を当て、彼の作曲の特徴=ぽさ を、実際のナンバーをご紹介しながら言語化しました。

 

「ソンドハイムっぽさ」の4つの特徴として、

1. ソンドハイムのTikTok(拍を刻み続ける)

打楽器以外の楽器が、時計の針のように延々とビートを刻み続ける。

2. だんご6兄弟(13thコード)

通常は「ドミソ」で完結するコードが、「ドミソシレファラ・・・」と積み重ねられている、音情報の多さが、ソンドハイムっぽさの真骨頂。

3. バラードの希少価値

作詞家でもあるソンドハイムは、歌の流れよりことばの流れを優先する。

4. トノマトペ

鳥のさえずり、足音、といった「擬音」を音楽で表現する。

 

を挙げ、これら全てを盛り込んで実際に作曲をしたら、ソンドハイムっぽい音楽ができるのか、

春はあけぼの S.ソンドハイム版(BHSオリジナル)

動画をご覧いただくことで、皆さまへの問い掛けとして講義を閉じました。ソンドハイム作品では、上記1-4が複雑に絡み合い、影響し合っていることもこの曲で再現しました。

 

「春はあけぼの」(清少納言)を歌詞とした、ミュージカル作曲家のスタイルによるオリジナル楽曲シリーズは、YouTubeチャンネルにて順次公開中です。


第1回「ロイド=ウェッバーの 何が『王道』なのか」(2020/7/4)

新シーズンZoom開催クラス、初回。

 

『キャッツ』『オペラ座の怪人』など数多くのミュージカル作品を手掛ける作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェッバーに焦点を当て、彼の作曲の特徴=ぽさ を、実際のナンバーをご紹介しながら言語化しました。

 

「ロイド=ウェッバーっぽさ」の4つの特徴として、

1. 夜明けのハーモニー(「オルゲルプンクト」)

ひとつのベース音の上で、コードやメロディが変化していく

2. サビ A サビ間奏

冒頭にサビ(最も聴かせたいメロディ)が登場し、そのメロディがオーケストラの間奏として再び現れる

3. オトナ化賛美歌(「ホモフォニー」)

メロディとコードが、縦に同時に動いていく、賛美歌っぽい作曲法

4. 字余りリズム

5拍子、7拍子といった「変拍子」を多用する

 

を挙げ、これら全てを盛り込んで実際に作曲をしたら、ロイド=ウェッバーっぽい音楽ができるのか、

春はあけぼの A.ロイド=ウェッバー版(BHSオリジナル)

動画をご覧いただくことで、皆さまへの問い掛けとして講義を閉じました。

 

「春はあけぼの」(清少納言)を歌詞とした、ミュージカル作曲家のスタイルによるオリジナル楽曲シリーズは、YouTubeチャンネルにて順次公開中です。

 

10月まで続くシーズン3+『ミュージカル作曲家たちの 音個性』では、引き続き、S.ソンドハイム/A.メンケン/R.ロジャース各作曲家の手癖をご紹介しつつ、それぞれのスタイルでの「春はあけぼの」楽曲を公開していきます。ご期待ください。